すぎや・まさるの湘南ブランチ

連載第84回

「ラブ&ピース」って、クサイですか?

 3年ほど前のこのコラムで「ウッドストック」というイベントのことを書いたが、その開催からちょうど50年目に当る今年の8月に「ウッドストック2019」が開かれる、というニュースが飛び込んできた。ウッドストックとは、1969年の夏にニューヨーク州郊外で3日間にわたって開催された、伝説のロックフェスティバルだ。

 いまでこそ大規模な野外フェスは、ごく普通に世界中で行われるようになったけれど、半世紀も前に全米から40万人もの若者を集めて行われた音楽イベントは、前代未聞の出来事であった。

 若き日のサンタナやいまは亡きジミ・ヘンドリックスをはじめ大物アーティストたちが続々と登場した、歴史的フェスとして語り継がれている。が、それと同時に、当時、泥沼化しつつあったベトナム戦争や、行き過ぎた物質文明に対しての不信感を背景に「愛と平和」や「人間性回帰」を唱えていたヒッピー文化を象徴するイベントでもあった。

 それから50年が経ったいま、世界はどんなふうに変わったのだろう? 戦争や核兵器は依然としてなくならないし、地球の温暖化は止まる気配すらない。2015年から昨年までの世界の平均気温は、観測史上最高になったという。人類の生存に関わる本質的な問題はまったく解決していないのに、世界の勢力地図や産業構造は大きく変化していく。ITや人工知能や遺伝子工学をはじめテクノロジーの進化は、倍の倍、またその倍と指数関数的に速度を上げていく。科学の発展が、かならずしも人類を幸せにしない現実を見せつけられながらなお、僕たちは走り続ける。

 そのような時代にあって、ウッドストックがまた開催される。主催者によると「50年前と同じように、単なるエンターテインメントではない、社会的な意義をもつイベントにする」のだという。2019年に集まるオーディエンスは、当時の若者たちが戦争や物質文明に対するアンチテーゼとして、精神性や人間らしい生き方を掲げたように、何か大きなムーブメントを起こすのだろうか。

 僕自身はというと、ウッドストックという響きにノスタルジーは感じるけれど、そして出演アーティストに興味はあるけれど、自分でも意外なほど冷静だ。野外フェスがこれだけ一般的になったいま、ウッドストックだけが特別なイベントにはなり得ないと思う。ただ、50年前に起こったことの、その哲学ともいえる「ラブ&ピース」には特別な意味がある。持続することが危ぶまれる「人類の未来」への最高の贈り物、といってもいいだろう。これから世界のさまざまな国と地域で、「愛と平和」のムーブメントが拡散する。そんな予感がする。


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