大自然の叫びが、私を圧倒します

現代アート作家 大野 静子さん

須崎半島の海岸沿いに延びる須崎・爪木崎遊歩道は、現代アート作家の大野静子さんにとって、インスピレーションの源泉です。
「遊歩道には古来の岩石があって、波が当たって散らばっていく。そういう姿が大自然の声になって、私を圧倒してくるんです。“私はどうしてここに存在しているんだろう!?”という私の叫びと、大自然の叫びがいっしょになって、不思議な感覚にとらわれます」
横浜に暮らす大野さんが下田を訪れるようになったのは45年ほど前のこと。彫刻家の父、井上信道さんが須崎を気に入り、心身を鍛える海辺の小屋を構えたのがきっかけでした。
「父は、知り合いの大学の先生から1坪ほどの釣り小屋を譲り受け、その後、家族で過ごせる広さに建て替えました。父が亡くなり、母が高齢になってからは以前ほど来られなくなりましたが、息子たちが小さいときは、夏は2か月くらいずっと、冬も休みの間は来ていました」
大野さんの母、井上寛子さんも画家であり、ふたりは別荘をアトリエとしても使っています。
「来れば必ず海に行ってスケッチしたり、創作したりしています。母は下田をテーマにした風景画が多いですね。私は現代アートなものですから、ここで得た大自然の力を頭に留めて、主に横浜の家で制作しています」
1918年に生まれ、102歳(2021年3月現在)になる寛子さんが、下田の魅力を語ります。
「空気がきれいで、水もきれい。私にとっては至福です」
大野さんは、下田の風景に日本独自の芸術を重ね合わせます。
「ここから見る海は桃山時代の障壁画です。細かい波のキラメキは、金箔や銀箔の輝きと一致するんですよ」
1960年代、ヨーロッパに渡った大野さんはアーティストとして、日本の独自性を模索したそうです。50年後のいまもそれがテーマであるからこそ、下田の風景に魅せられるのでしょう。

PROFILE
Shizuko Ono
父は彫刻家、母は洋画家の芸術家一家に生まれる。人智では計り知ることのできない巨大な力を絵画や造形に昇華する現代アート作家。日本国内のほか、アメリカ、ドイツ、スウェーデンなどで個展を開いている。
http://shizukoono.com/
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