かろやかなヴォーカルのまわりに粒立ちのいい音がきらめく。新作『乱反射ガール』はキラキラ感が心地よい。
「子どもの頃を過ごした80年代の雰囲気が好きなんです。音楽、テレビ番組、街の雰囲気、ファッション、すべてが私のなかでキラキラしていました。80年代の雑誌広告を集めた本を眺めていて気づいたのが、当時は受け手のイマジネーションを信頼している広告が多かったということです。化粧品のキャッチコピーにしても“夏はC”とか。いまは効能をはっきりとうたったものが多いと思うんですよね。同じように、80年代の音楽にはイマジネーションの隙を与えてくれるおしゃれさがあったと思います。根底にリアルな感覚をもちながら、どこまでファンタジックに表現できるかというのが今回の挑戦でした」
作曲やアレンジ、演奏などにおける音楽仲間の貢献も大きい。NONA REEVESの奥田健介は80年代の特徴的な音色やフレーズをちりばめた「Sentimental」で当時の空気感を再現。TRICERATOPSの和田唱は快活なオリジナル曲「Perfect You」を提供したほか、マイケル・ジャクソンの「HUMAN NATURE」をデュエットする。
楽曲がフォークの要素を含む「鎌倉」も印象的だ。醸す雰囲気はあくまでもポップという点に、土岐さんの個性があらわれている。 「森山直太朗くんが何年か前に書いた曲です。 “土岐さんの声に合うと思うんだけど”と言われて、デモを送ってもらったらすごく気に入りました」
さて、土岐さんにとって休日とは仕事から解放されるときであると同時に、次の創作に向けてリフレッシュするチャンスでもある。 「料理をつくるってストレス解消になりますね。休みの日は、前の日に買い物をしておいて、朝から仕込みに手間のかかる献立をつくります。レシピは見ずに、ある程度、失敗しないだろうなという路線で挑戦をするのが好きです。ゆっくり音楽を聴くのも贅沢だと思います。BEVERLY KENNEYは声がすばらしい。ジャズ・シンガー特有の恐さとか強さがなくて、かといって、かわいらしいだけではないんです。ジャズ・ヴォーカルって細かいニュアンスまで聞き届けることができたときに、すべてがわかったりするじゃないですか。集中して聴きたいですよね」 |