アコースティック・ギターの笹子重治さん、バンドリンの秋岡欧さん、コントラバスの沢田穣治さんが初めていっしょに音を出してから20年。ショーロクラブの新作『トリロジア』は“一人欠けたら存続不可能”と3人が揃って断言するグループだからこそ成せる音楽の魔法に満ちている。たとえば「クアトレイン」は2分余りの小品だが、バンドリンが奏でるシンプルなメロディとハーモニクスの響きが美しいコントラバスの絵画的なソロとが反応し、音世界は豊潤だ。
「買い物に行くとき、浮かんだメロディです。メロディを繰り返す途中に間みたいなものがあるといいかなと思って、ソロを入れました。長く3人でやっているので、目標が定まると集中力はあります。そんなときは音符では表現できないところにポンと行けちゃうんです」(笹子さん)
気心の知れたゲストが彩りを添える曲も多いなか、秋岡さんの作品は4曲中3曲がトリオ演奏。「轍のショーロ」は穏やかな曲調のなかでアンサンブルの表情が次々に変化し、味わい深い。
「曲をつくるときは、3人でできることがまだいろいろあると考え、3人の音が鳴っています。自分がソリストなので、自分でメロディを完結できる曲だったら無理に他の楽器を入れなくてもいいやというのもあるんです」(秋岡さん)
技巧的なのにどこか人懐っこいメロディが軽快なリズムに乗り、高揚感を生む「僕のジュリア!」は沢田さんのオリジナル。曲の始まりと終わりには、40年前に製造されたアルファロメオ ジュリア クーペのエンジン音が鳴り響く。
「いま僕、音楽よりジュリアに興味あるからね。失言か(笑)。ミックスやってるとき、“あ、今日はジュリアで来た。エンジンの音も入れよう”と、駐車場で録りました。全国のジュリア乗りの人に捧げたいですね」(沢田さん)
音楽的背景の異なる3人だが、ショーロクラブとして贈り物にしたい曲を選ぶとき、迷いはなかった。笹子さんが言う。
「3人が間違いなく好きなのはエグベルト・ジスモンチ。音楽はジャンルで聴くものではないということを教えてくれます。コアなファンが多い人ですが、隣のおばちゃんにも聴いてもらいたいですね。ピアノ・ソロのアルバム『ALMA』に入っている“Loro”はきれいな曲です」 |