取材・文/浅羽 晃 写真/高木厚子
あたたかく、のびやかなヴォーカル。凛とした雰囲気を醸すメロディ。“暗闇の空 光るオーロラ ここまで歩いて来た君にだけ 見えるキセキ”という説得力に満ちた歌詞。それらが、光の三原色が一点で交わり無垢なる白い光を放つような反応を起こす「1ミリのキセキ」。この傑出したバラードで幕を開ける村上ゆきさんの『1ミリのキセキ』は、5作目にして初めて自作曲でまとめたアルバムだ。 「子どものときから音楽があって当たり前の生活をしてきました。いろんな人にこんな曲を歌ってみたらと言われて、喜んでもらえるのならと、歌ってきたんですね。これまではカヴァーが多かったのですが、“全曲、オリジナルで”と背中を押してもらって、“じゃあ、やってみます”と。一貫して変わらないのは、リクエストに応えていくことなんです」 多くの人の胸に染みる村上さんの音楽は企業が求める音楽でもある。「私を連れて帰ろう」は“東武特急スペーシア”のCMコンセプトをもとに、歌詞よりも先に曲からつくられた。 「過去の記憶が甦るような音楽になったらいいなと思って書きました。大貫(妙子)さんの詞は、あまりにも自分が考えていたもののど真ん中だったので、最初は泣けてきて歌えなかったくらいです」 収録曲の多くはCHORO CLUBの沢田穣治がプロデュースとアレンジを担当。ブラジル風味の「思い出のつかまえかた」における楽器とスキャットの凝ったユニゾンのフレーズをはじめ、聴きどころがちりばめられている。 「手書きの難しい譜面なんです。でも、空気感を大事にしたかったので、機械で修正しない一発録音にしました」 贈り物にしたい1曲として、いくつかの候補から選んだのはLEON RUSSELLの「A Song For You」だ。 「二度と会えないかもしれない友へ、最後に一度だけ聴いてもらえるとしたら、この曲を贈りたい。はじめはただ単に、いい曲だな、好きだなぁくらいな感じで歌っていたのですが、自分でオリジナルを書くようになって、あらためてこの曲のよさを再確認しました」