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トム・ジョビンやミルトン・ナシメントの名曲を心に染みる声で歌った『sabia』から4年。chieさんの第2作『ilha de sol』はアーティストとしての凛とした存在感を放つ素晴らしいアル バムとなった。
「デビュー作をブラジル人たちとレコーディングし、いっしょにツアーもしたことですごく刺激されました。もっと知りたい、勉強したいという気持ちが強くなり、2005年の12月からリオに6ヶ月間住んだんです。暮らしてみると、東京ではかなりシステマティックに人が生きていて、それが当たり前になっていると気づきました。向こうでは雨が降ったら約束事も平気で破るし、"昨日はOKと言ったけど、今日、いやになっちゃったんだからしょうがないじゃん、人間なんだから"と言うんですよ。最初はとまどったけど、同じ波動で生活することによって、それがどれだけ面白いことかわかりました」
現地のミュージシャンと交流したり、老舗ライブハウスへの出演が評判を呼んだり(ブラジルで最も読まれている新聞"O GLOBO"にインタビューされた)、さまざまな体験を通して新作 の方向性が決まっていった。1曲目のジャヴァン作「Embola a bola」は快活なリズムに弾むようなスキャットが乗るオープニングから実に気持ちいい。
「なんかドキッとしません? 聴いてパッと血液の流れが速くなるようなものをつくりたかったんです。ブラジルではどんなにやわらかい音楽でもグルーヴがあるんですよ」
アルバムは07年にリオでレコーディングされているが、唯一、カエターノ・ヴェローゾ作の静謐な「Minha Voz, Minha Vida」だけは前年の滞在中に行われた。
「好きな人がいたのですが、足並みが揃わなくて、最後にはお互いに人として信じようという気持ちが残りました。嫌いになってしまうことがないように、いやな思い出から美しいものをつくりたいと思ったんです。偶然にも1年後の同じ日にミキシングをして、泣くのを我慢していたら吐きそうになりました」
贈り物にしたい1曲として選んだのはTaxi Taxi!の「All I Think Of」だ。
「がんばりすぎている人に。ギュッと締まっている骨盤がガクッとゆるむようなサウンドなんですよ。でも、ちゃんと芯はあるんですね。やさしく励ましてくれるような音楽です」 |