高校2年のときに部活動でクラシック・ギターをはじめ、ソロ演奏の全国コンクールで上位入賞するまでに上達した宇高靖人さんと山下俊輔さんが二重奏に大きな可能性を見いだしたのは音楽大学2年の冬。故郷・高知の民謡「よさこい節」を主題とした作品「夜更来変奏曲」に出会ったからだった。
「デュオでやったコンサートが大成功だったので、二人でやっていくのがいちばんいいんじゃないかと考えたんです」(宇高さん)
ほとんど毎日、5時間ほどは大学の練習室などで練習し、第16回重奏ギター・コンクールで優勝した。デュオ名の「いちむじん」は土佐弁で“一生懸命”を意味する。
「一人では楽しめないことができるっていうのが二重奏のいちばんの魅力です。音で会話をするとパワーが2倍ではなく、3倍、4倍になると思います」(山下さん)
メジャー・デビュー作『Rui』のオープニングを飾る「Jongo」はダイナミックな演奏が視覚的なイメージを喚起する。呼吸がぴたりと合うフォルテシモの力強さは、うなりをあげて吹き抜ける風のようだ。
「アサド兄弟のために書かれた曲で、僕が大好きだったんです。2年ぐらい演奏してきたので味が出てきましたね」(宇高さん)
タイトル曲の「Rui」は組曲形式で感傷的なメロディが次々に現れる。とくにスタートから3分38秒、情景がガラリと変わるところの美しさは息を飲むほどだ。繊細なタッチによる豊かな表現力が素晴らしい。
「コンサートで泣く方もいます。いろんな思い出が詰まった曲なので、僕は一生残る曲だと思っているんです。演奏の難易度も高いですし、二重奏のレパートリーには欠かせない曲になっていくと思います」(山下さん)
アルバムには二重奏のために書かれた作品だけでなく、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」やドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」といったクラシックの名曲をアレンジしたものや、映画音楽の「ニュー・シネマ・パラダイス」も収められている。
「クラシック・ギターをやっている方ばかりでなくて、一般の方に聴いていただきたいんです」(山下さん)
贈り物にしたい曲として、宇高さんはB'zの「いつかのメリークリスマス」を選んだ。
「小学校のころは音楽が好きじゃなかったんですけど、B'zはアニキが聴いていたので覚えています。この曲は、いままさに別れを経験している人に。ただ落ち込むだけなんですけど(笑)。皆そういう経験をするし、一人だけじゃないってことですね(笑)」
山下さんはしばらく考えて、ウルフルズの「バンザイ」に決めた。
「親でもいいですし、恋人でもいいですし、大切な人に。元気があるときもないときも、バンザイって心から叫ぶといっしょによろこべる。そういうのを感じられる曲なんじゃないかと思います」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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