オープニングからシコ・ピニェイロのギターが郷愁を誘うサンパウロ録音の『Ponto de partida“Sao Paulo”』。マルコス・スザーノをはじめとする3人の打楽器アンサンブルがアフロ・ブラジルのリズムを奏でてスタートするリオデジャネイロ録音の『Ponto de partida “Rio de Janeiro”』。同時リリースの2作によってデビューしたGIRA MUNDO(ジーラ・ムンドゥ)はプロデューサー/作編曲家/ギター奏者の奥原貢さんのソロ・ユニットだ。ユニット名はポルトガル語で“回る地球”を意味する。
「過去の焼き直しではない、自分たちの同世代的な、現在進行形の音楽をつくっていきたいんです」
2作に収められている音楽は、ブラジル音楽をベースにしつつも、新しい肌触りを感じさせるのが印象的。そこに大きく関わっているのが音楽づくりのプロセスだ。たとえば、アン・サリーのスキャットをフィーチャーしたサンパウロ盤の「Crocodile Tears」は次のようにしてつくられている。
「打ち込みでデモ・トラックをつくり、アンさんのヴォーカルを録音。そのまま発表できるレベルのラフ・ミックスにして、サンパウロに持っていきました。それをブラジルのミュージシャンに聴かせて、インスパイアされた演奏をしてもらい、打ち込みと差し替えています。日本に育った自分の世界を全開にして、ブラジルのミュージシャンと価値観を共有できるか試したかったのです」
生の打楽器群と打ち込みを巧みにミックスしたリオ盤の「Salala」は、プリミティヴな感覚と近未来感の同居がカッコいい。共作者のSaigenjiは、スピード感あふれるダンス・ビートに乗せた躍動的なヴォイス・パフォーマンスで存在感を発揮している。
「ゲンちゃん(Saigenji)は音楽に対してすごいピュアで、理想も高い。こういう人と音楽をやりたいとずっと思ってきた人が、いたって感じなんですね。家の近所で飲んでたときにたまたまいっしょになって、話すようになったんですけど(笑)」
贈り物にしたい1曲は、マリオ・アヂネーの「Pedra Bonita」を選んだ。
「ちょっと元気のない人に贈ります。初めて聴いたときから、すごく心に入ってくる、パーソナルな感じの曲だなと思っていました。いまでもこの曲を聴くと、“音楽っていいなあ”とか“人生、捨てたもんじゃないな”とか、心がきれいになった気分がするんです」