個人かグループかわからないアーティスト名はとかくミステリアスに感じられるもの。しかし、noonという響きはあくまでも穏やかで、外に開かれているイメージがある。
「名前にとらわれないで聴いてほしかったので、耳になじむような音を選んだのです。それと、ヌーンには韓国の言葉で雪の意味があるらしく、あとになって友だちから“雰囲気のあるいい名前をつけたね”って言われました。私、韓国人なんですけど、4世で言葉は知らないんですね」
もっとも、noonさんの名前はヴォーカルの個性をうまく表現したもののようにも思える。最新アルバム『Smilin'』に収められているJAMES TAYLOR作の「Don't Let Me Be Lonely Tonight」は夜をテーマにした曲だが、noonさんが歌うと青空に浮かぶ雲を見るような、独特の心地よさを醸しだす。
「真似するとか真似ないようにということは考えないで、自分の解釈をしています。無理に引っ張って、グニャッと曲げることはできないし、その曲が好きという気持ちを大切にしています」
アルバムのオープニングを飾る「Smile」も持ち味である陽だまり感がいっぱい。ナイロン弦のギターをつま弾く小沼ようすけとのデュオはとてもピースフルだ。
「ピアノとのデュオと同じくらい、ギターとのデュオは気持ちいい。始まりの小沼さんのロマンティックなフレーズが印象的で、大きく木が写っているジャケットの写真にぴったりでした。それで1曲目にしたんです」
オーガニックなものにひかれるnoonさんは音の好みをアレンジャーに伝えるとき、次のようなたとえ話をする。
「(目の前にある木のテーブルを触りながら)こういう感触はいいんですけど、鉄のテーブルの触りごこちはいやなんです、みたいな言い方ばっかりですね(笑)。温もり感のある演奏が好きなんです」
今回のアルバムは、3作目にして初めてのセルフ・プロデュース作だ。
「最後のジャッジができるというのはありがたい反面、判断が難しい場面もたくさんありました。自分の声と演奏のバランスが4段階あったとして、いちばん美しく聞こえるのはどれかというとき、人と意見が違ったりすると悩みましたね。でも、決めたという事実が自信につながるし、充実感、達成感はこれまで以上に得られました。セルフ・プロデュースは経験すべきことだったと思います」
贈り物にしたい1曲にはELIS REGINA & JAIR RODRIGUESの「Tristeza」を選んだ。
「JAIR RODRIGUESが“ラララ”と歌いだす最初の“ラ”から絶対にパワーをもらえます。あたたかいし、包み込んでくれるので、エネルギーチャージが必要な人や落ち込んでいる人に贈りたいですね」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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