スウィングしながらバリバリスイスイとアドリブしていく快感に性別も年齢も関係ない。矢野沙織さんの最新作『PARKER'S MOOD Live In New York』はそう実感させる。
「ニューヨークでワンマンのライヴをやるっていうことは大きな夢でした。しかもレコーディングなので緊張というか、ちょっと萎縮した部分があるんですけど、行く直前ぐらい になるとうれしいな、楽しいなって」
共演はマイルス・デイヴィスの1959年の大傑作『KIND OF BLUE』のリズムを支えた名ドラマー、ジミー・コブのトリオ。会場は人気クラブのSMOKE。舞台は申し分なかった。しかし、レコーディングのために2日間用意されたうちの初日(2005年7月24日)は散々の出来だったという。
「1日目は6時半のスタートで、ふつうより早かったんですね。夏のニューヨークって8時くらいまで明るいんですよ。お客さんもまばらだし、自分が映像として思い描いていたものと全然違っていて、どうしようって。そういうんじゃだめなんだろうと思うんですけど(笑)。ホテルに帰って落ち込みました。ちょっとしたことで泣くんですよ。だからけっこう、号泣しました(笑)。すっごい泣いて、ああ、疲れたなあみたいな感じになるじゃないですか。ああ、風呂でも入ろうかなみたいな気分になれるというか。気分を切り替えて、まだ一日あると思ったら、次の日はわりと楽しい感じでできました」
収められているのはすべて2日目、25日の演奏。4分を超えるアドリブを物語性豊かに歌いあげるタイトル曲や、テーマが終わってブレイク後のソロが鋭く決まる「A Night In Tunisia」など、どの曲でもビ・バップに魅せられたサックス吹きとしての存在感を十分に示している。彼女自身がとくに気に入っているのは「Don't Explain」の演奏だ。
「ビリー・ホリデイのナンバーですごく思い入れがあります。演歌が好きなんですよ。基本的に“捨てられた”みたいな歌詞が好きで(笑)。歌詞がある曲は単語を大事にして吹いています。ジャズって音符の流れをちょっと変えて吹いたりすることが多いんですけど、単語の間で切っちゃうのはおかしいじゃないですか。テーマではそういうのに気をつけて、アドリブのところは“せつないな”みたいなことを考えて吹いています」
贈り物にしたい1曲として選んだのはジャミロクワイの「Cosmic Girl」だ。
「小さいときの妹に贈ります。4つ離れているんですけど、妹がちっちゃいときのことをまったく覚えていないんですよ。妹が生まれるまで家は私のものだったじゃないですか。話を聞くと、いないものとして見てたって。いまはすごく仲がいいので、ちっちゃいときイジワルしてごめん、みたいな(笑)。父がジャミロクワイすごく好きで、日曜日にかならずかかっていました。懐かしいし、すごいカッコいいし、元気になれます」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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