インディーズからリリースした3枚のアルバムはいずれも高い評価を獲得し、日本でのコンサートはつねにソールドアウト。人気と実力を兼ね備えるニューヨーク在住のジャズ・ピアニスト、山中千尋さんがメジャー第1作『アウトサイド・バイ・ザ・スウィング』を完成させた。
ジャズの伝統を大切にしながら、独自の視点や語法を加えた音楽は新鮮。典型がインディーズ時代に続く2度目のレコーディングとなった「八木節」だ。民謡のメロディと現代的なハーモニーの組み合わせは刺激に満ちている。
「このアルバムはアメリカ、ヨーロッパでも発売されますので、いままでわたしがやってきたことを知ってもらう意味で入れました。地元、群馬の民謡ですけど、すごくリズミカルな曲で、ジャズの雰囲気にマッチするんです」
速く、力強いフレーズが旋風となって押し寄せるこの曲のピアノ・ソロは確かな技術に裏打ちされており、とても気持ちいい。
「上州女とか言いますけど、本当にそのとおりで(笑)。ちょっと女性の強さを出してみました」
中島みゆきの「まつりばやし」とデューク・エリントンの「ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル」をつないで、1曲にまとめてしまうセンスも山中さんならではのものだ。
「みゆきさんは言葉の選び方もきれいですけど、メロディが強くてどんなグルーヴにも乗るんです。デュークの曲はバークリーの学生時代にビッグ・バンドで演奏した思い出の曲。いっしょにセカンドラインというニューオーリンズのグルーヴに乗せたら、お互いが主張して、でも共存できる感じが面白いと思いました」
アルバムのオープニングにはオリジナル曲が並ぶ。ほぼ全編がアドリブで構成された「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」と、対照的に親しみやすいメロディをもったハード・バップ作品「アイ・ウィル・ウェイト」だ。
「1曲目はカメラがパーンしてどこにいくかわからない感じ。タイトルが出てくるのが2曲目というように、曲順は映画のつくりを意識しました」
この2曲はタイトルの由来も興味深い。
「大好きなロシアの映画作家、タルコフスキーの『惑星ソラリス』に、“I will wait outside by the swing”、外のブランコの横で待っているっていう台詞が出てくるんです。“outside”はちょっとはずれた感じで弾くというジャズの用語でもあるし、ダブルミーニングがあっていいかなと思って」
贈り物にしたい1曲として選んだのは、ニューヨークでライヴの追っかけもするほどのファンというイリアーヌの「Back In Time」だ。
「実際にCDを何回もプレゼントしたことがあります。理屈抜きにおしゃれで、グルーヴ感があって、メロディがきれいで、生き生きしている。元気にしてくれる音楽を探している女性に!」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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