6歳でピアノを習いはじめ、ほどなく作曲もするようになった上原ひろみさんは、当時のワクワクした気持ちをよく覚えている。
「音楽教室の先生に“小さなモチーフをつくってみたら”と言われたのが、曲を書くようになったきっかけです。“自分のものなのだから何を書いてもいいんだ”というのが、すごく楽しかった」
以来、自作自演は上原さんにとって、自然なことになっていく。
「自分が書いた曲がどうやって演奏されたいかは自分がいちばんわかっているので、自分で演奏しています」
リリースされたばかりの2ndアルバム『ブレイン』も全曲、オリジナル。現在はボストンで生活する上原さんが、日々、発見したり感じたりしたことを、音楽家としてのフィルターを通して表現した曲が収められている。
ベース、ドラムスとのトリオで難度の高いキメを連続させる「カンフー・ワールド・チャンピオン」は、カンフー映画にインスパイアされて書いた曲だ。
「ボストンとニューヨークのチャイナタウンを結ぶチャイナバスというバスがあって、ライブでニューヨークに行くとき、利用しています。4時間半くらいの間に車内で映画が2本流れるんですが、全部、カンフー映画なんですよ(笑)。ストーリーは子どもっぽくて、ええ?って思うことも多いけど、ブルース・リーやジャッキー・チェンがカンフーをすればそれでいいんです。ジャッキー・チェンの映画のメイキングも見ましたが、面白い戦闘シーンを撮るための緻密な計算にドキッとしました。マンホールの蓋を使ったり、ゴミ箱に隠れていていきなり出てきたり、そういう好奇心旺盛でコミカルな闘い方を表現できないかなと思って書いた曲です」
上原さんの音楽は、高度な技術に裏打ちされたスリリングな一面とともに、豊かな情感も備えている。生まれ育った浜松をイメージしてつくられた「グリーン・ティー・ファーム」は典型だ。
「日本を離れてみて、家族がどれだけ自分を支えてくれているかがわかったので、感謝の気持ちを音楽にしました。世界のいろんなところをツアーして、いいライブをすると、両親に見て欲しかったなと思うのですが、この曲を弾くと、両親がそこにいてくれるような気がするんです」
どこか日本的な情緒の漂うそのメロディには、マジカルな力がある。
「アメリカでもヨーロッパでも、“故郷に帰りたくなる”とか、“両親に電話してみようと思った”とか言われました」
上原さんが贈り物にしたい1曲として、いささかの迷いもなく選んだのは、フランク・ザッパの「Be-Bop Tango」だ。
「音楽が好きなすべての人に贈ります。彼はジャンルの垣根を越えてる人で、その曲、ダンサーがいるんですよ。CDなのに(笑)。ライブ録音で、ジョージ・デュークというキーボーディストがダンサーと掛け合いをするんですが、想像力をものすごくかきたてられるんです。好きだったら何でもありという、とてつもない情熱を感じますね」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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