沖縄の強い陽射しと影。神秘的な夜。そこに生きるものの生命力。それらを色彩感豊かに描く版画家、名嘉睦稔の展覧会で、つぐみさん、ゲレン大嶋さん、ヒデオ イシジマさんの3人が出会ったことをきっかけに、TINGARAは結成された。つぐみさんが振りかえる。
「最初は音楽をやっている人間同士とは知らずに飲み友だちになったんです。宴会になるとゲレンちゃんは三線弾きまくって沖縄の歌うたうから、なんだこいつ、面白い人がいるなって(笑)」
やがて音楽の話をするようになると、共通の意識をもっていることがわかった。
「ギャラリーで流して、ぴったりあう音楽があったらいいなと話しあいました。探してもないんですよね。それで、作曲の仕事もしている彼女に、つくったらどうって、もちかけました」(ヒデオさん)
つぐみさんが沖縄出身ということもあり、自然とモチーフは沖縄音楽になった。
「沖縄の民謡というのは歌の旋律があって、三線がバックをとるっていうスタイルになっています。何人いても三線は同じフレーズを弾くし、歌も同じ旋律をうたうのが基本です。でも、私たちは全部の楽器やコーラスが絡まっていくような感じで世界観をつくりたいと思いました」(つぐみさん)
TINGARAの音楽が新鮮なのは、沖縄をイメージさせながら、一方で極めて都市的な感覚をもち、両者が均衡を保っているところだ。そこにはゲレンさんの弾く三線の存在も大きい。最新アルバム『みるや かなや』に収められている「にぬふぁ星」や「蒼い翼」はストイックなまでに音数が少ないが、だからこそ、音楽に映像的な広がりを与えている。
「空間をつくるために弾いているといっていいかもしれないですよね」(ゲレンさん)
つぐみさんが言う。
「この3人だったからできたサウンドだと思うんですよね。二人は東京と横浜の出身で、私は沖縄から出てきて、東京で知り合った。沖縄に住んでいて生まれる音楽とは違うし、自分たちがいまやっているつくり方を続けていきたいんですよ」
3人を代表してつぐみさんが選んだ贈り物したい1曲は、パット・メセニー・グループの「The First Circle」だ。
「この曲を聴いたとき、音楽の最高峰に触れた感覚があって、すごい幸せな気持ちになりました。理想郷を意味する“みるや かなや”という言葉から、私が描くイメージそのものなんです。先日、3人で石垣島を旅しました。私が2歳のときに亡くなった父方の祖父が牛を引いている写真を二人に見せたら、ひかれるものを感じてくれて、米盛家のルーツをたどる旅に行こうよって言ってくれたのです。だからこの曲を祖父に捧げたいですね」
text by Akira Asaba
photo by Atsuko Takagi
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