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生活を楽しむ家
 
 
 
生活を楽しむ家

 サン・ルイ島。セーヌ川のまん中、有名なノートルダム寺院のあるシテ島と並ぶ小さな島。パリはこの地から始まったという由緒深い場所である。島にメトロの駅はなく、ここに来るにはセーヌ川にかかる橋を渡って入る。島のなかは古いアパルトマンが並ぶ昔から変わらない田舎村のよう。取材の約束をしたマイブリットさんはそんな建物の1つの最上階に住んでいる。玄関を開けるとすぐ奥には小さなキッチンが見える。その反対側の1部屋にはテーブルやベッド、彼女の生活がすべて見えている。つい「ここの大きさはどのくらい?」と聞いてしまった。「28uよ。もう25年も住んでいるの」。

 マイブリットはデンマーク人だ。16歳の時、まだ行ったこともないフランスのパリに絶対住むと心に決めた。高校卒業後、当時それしか持っていなかったというミシンとタイプ・ライターを持って一人でパリにやってきた。しかし、パリに来ても最初はフランス語ができず、言葉にできない表現欲求をいつしか絵に表すようになっていた。そんな絵を見たフランス人の友人にすすめられ、パリのボザール(美術学校)を受験することに。難関な試験にみごと1度でパス。こうして彼女はパリで画家へのスタートを切ることになった。

 その一方で、お金のない外国人学生に家探しは大変だった。同郷の人が経営するサン・ルイ島のレストランでアルバイトをしていた頃、その経営者が一時的に自宅の1部屋を貸してくれた。しかしなおアパルトマンを見つけられずにいた時、その彼が窓から見える少し遠くの建物の4階の窓がいつも閉まっていると、それを教えてもらったマイブリットは持ち主を探しに行った。会えた持ち主は売却を望んでいた。しかし彼女の話を聞いた主が1年だけという約束で貸してくれることに。物件の中も見ず、1年分の家賃の前払いという条件と交換に渡された鍵で入った場所は、すばらしい光の入る小さなアパルトマンだった。そして1年の約束が25年も続いてきた。「運命ってあると思う。私はパリに来て、この家に出会ったおかげでずっと画家として暮らしてこられたの」。

 父親に手伝ってもらい、美術学校に捨ててあった古い木の扉を使ってキッチンを作った。玄関の扉のペンキや床の絨毯を根気よくはがしたり、家具のほとんどは人から譲り受けたもの、または自分で工夫して作ったものばかり。質素だけどセンスが良く、白くてシンプルな空間は彼女が生まれた北欧のスタイルを思い出させる。

 「この島の人はみんなこの場所に愛着を持っていて、守られている感じがする。セーヌ川を渡って帰宅する喜びは他に代えられない」と彼女は言う。ところが悲しいことに、彼女はもうじき引越をしなければならない。大家さんがついに売ることを決めたのだ。「ここは特別すぎて、パリの他の場所に住むのは無理。変えるならいっそのこと全部を変えるしかない」。次の行き先はロンドンかニューヨークか。「きっとなんとかやるから」。次に彼女を待つ住処は、どんな運命を彼女に与えるのだろう。

生活を楽しむ家

生活を楽しむ家 Maibritt Ulvedal Bjelke
マイブリット・ウルベダル=ビェルク
www.ulvedalbjelke.com
上、右から ●ここが暮らしのメイン空間。正面の絵は最近行った展示会「TWIST&TEASE」の作品のいくつか。●入居した時にキッチンはなかった。手作りしたキッチンは小さくてもセンス輝く。●キッチンの向かいに朝食テーブルもしつらえた。もちろん板は拾い物をうまくカット。●集めた古い食器やナプキンを友人を招いた時に使う。「こうした本物のコットンの手触りが時には必要」とマイブリット。●白で覆われていた玄関扉のペンキを根気よくはがした。するともとの味ある木の扉に変身。パリではすきま風をふせいだり、居間に近すぎる玄関を目隠しするためにカーテンを付ける人も多い。●マントルピースの上も質感高い銀製の小物で上手に飾り付け。

TEXT:中平美紀 PHOTOS:Jacques Pepion

 
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