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クリエイターのインテリア
クリエイターのインテリア

上から左から
●メインスペースの大きさに合わせて彼女が作った机が生活の中心。3台のパソコンを使って仕事をする。●建物の入り口は石畳にレンガの壁、天井の高いアトリエの窓がアクセント。●メインスペースとキッチンの仕切り壁に彼女のビデオ作品を映写。テーマは日本のたたみ一畳の上に寝るポジションをさまざまに変化させた時の感覚。●中2階の彼女のアトリエ。長い廊下の先がメインスペース。手前は彼女が好きなダンス振付け家のポスター。●日本の楽焼と北欧デザインの木製雑貨。●黒のフルーツ皿は70年代北欧デザイン。ミニマリズムのなかに徹底した彼女のこだわりがある。●読書は彼女の生活に欠かせない。本棚には彼女の人生の思い出がある花びらや樹の皮を飾っている。

 パリに住むエリザベットはビデオ・アーティスト。彼女が表現するのは人とスペースとのあいだに潜む‘なにか’。それを映像と音を使って描く。建築物、大きな部屋、あるいは洋服や靴。そうした容れ物のなかに自分を置くと、容れ物と自分との間には空間ができる。広い、狭い、あるいはほんのわずかな隙間ができる。そこに人は何かを感じる。振動する空気がモノにぶつかる音、モノが擦れ合い音となって人の耳に響く。エリザベットはそこで生まれる感覚を肌で感じ、研ぎ澄まされた耳で聞き、動画に重ねて表現する。あるときは、靴紐が皮を縛りつける‘ギュギュ’という音。足を入れた靴の皮が‘ギシギシ’と動く音※。彼女は、繊細で詩的なオノマトペの世界を映像にのせてつくり出す。

 エリザベットはパリで生まれ、南仏の美術学校を卒業した。その後マルセイユで制作を開始。200uもある元スポーツ施設を改造したアトリエ住居が現在の彼女の作品の原点だという。天井の高い、真っ白な住居で暮らすうち、彼女のビデオ・アートが生まれた。それ以来、彼女にとって同様な空間が制作に欠かせない。彼女がパリに来ることになったのは10年前。パリ市がアーティストに提供するアトリエ住居に住めることになった。古い建物を改造したこの集合住宅には8つのアトリエがある。

 彼女の住まいの玄関を開けると昔ながらの小さな木の階段が来客をいざなう。中2階ほどの高さまで上がると、長い廊下とともに明るい60uのスペースが広がる。彼女は好んでモノクロ映像を作る。その映像が現実に飛び出てきたような空間がまさに彼女が暮らす場所。白い壁に白い床。ミニマリズムな装飾。いや、装飾もないほどこざっぱりとそぎ落とされた白一色の部屋。

 彼女の生活空間にプライベートと仕事の区別はない。部屋に仕切りが少ないのもその証拠だ。メインスペースには入居して最初に作った大きな白い机がひとつ。ここでパソコンに何時間も向きあい、また時にはここで友人と食事もする。ここにソファはない。彼女が必要でないものはない。あるものは彼女が心から好きなもの。それは永遠に古びないデザインや質のもの。ジャン・プルヴェの椅子、日本で買ったシンプルな楽焼の和食器、そしてマルタン・マンジェラのブーツ、etc…

 彼女はビデオの制作に入る前、たくさんの文章を書いて準備する。それに疲れた時、彼女は旅や散歩に出る。「自分の中のものを出し切ったら、外から何かを吸収したくなる」とエリザベットは言う。ここは10区、11区、19区、20区の交差点。移民の多いパリの下町の、中国、インド、アフリカ、あらゆる異文化がワイワイ、ガヤガヤと交差する地区。「この静かで真っ白な空間と、コスモポリタンな街とのコントラストが私にとっては必要なの」。

※ESSENS DE VRANDECIC(ブランドDe Vrandecicのデザイナーを通した音と映像のフィルム。福岡のセレクトショップ「マイノリティレッブ」にて今年4月、展示された)。
www.minorityrev.com

エリザベット・クルスヴールさん
エリザベット・クルスヴールさん/
Elizabeth CRESEVEUR
www.elizabethcreseveur.tumblr.com

TEXT:矢倉理江+中平美紀 PHOTOS:Jacques Pepion
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