上から左から
●チョコレート色の壁にかけた巨大なインド製鏡。縁は貝殻とリサイクル品のミラーで作られている。●アトリエ。本棚の前には朱色に塗った板を並べて雑然さを目隠し。●アトリエのある建物の中庭のテーブルはそこに住む住民たちが共有して使っている。●チェストの上に彼女の「旅手帳」の1つを額入りで装飾。鏡に映り込んだカラフルな陶器は彼女が中国で製作したお茶つぼ。●リビングの片隅に置いた中国製のテーブル、70年代風のチェストなどとミックスされたインテリア。●現在改装中の1部屋には手作りの素敵なカーテンがすでにかかっていた。 |
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ファビエンヌが描き貯めた「カルネ・ド・ヴォヤージュ(旅手帳)」を見るなり驚いた。ささっと模写した水彩画がこんなに上手な人もいるんだと。ファビエンヌのアーティストとしてのキャリアは、こうした旅を絵で綴った日記からスタートした。以来、さまざまな素材にイラストを描いている。陶器、あるいは布地といった、食卓やインテリア用プロダクトが彼女のイラストの対象である。イラストのモチーフも旅を経るごとに増えてきた。ある時にはイタリア・ルネサンス時代の建築物や人物像をアレンジしたもの。あるいはトンボといった昆虫を陶器に描いた時期もある。タイで出会った素晴らしい藍色の染物の色を陶器にも再現している。
彼女の自宅も、そんな異国への旅をイメージさせる18区、アフリカ系移民の多い下町風なカルティエにある。ファビエンヌがプロの作家としてスタートした1985年頃から住んでいる。何度か引っ越しをしたが、いつもこの界隈で、と決めてきた。今のアパートに引っ越してきたのは6年前。「何かいろいろなものが混じっているほうが好きなの」と話すファビエンヌ。上品で控えめな印象を与える外見とは対照的に、彼女の内側に潜むアーティストとしてのパワーを表現した言葉かもしれない。それは彼女のインテリアにも反映されている。
人の目をひきつける家具や装飾物、ファブリックは、世界を旅しながら彼女が見つけたエスニックなものが多い。それを友人の作品と組み合わせたりするのがファビエンヌ流。「こう波を描くように、小さなストーリーを順に並べているつもり」と自分の腕を波のように揺らしながら説明してくれた。壁に飾ったインド製の小皿から、ソファにのせたフランスのノルマンディ地方の乳牛を思わせるクッションのインド風飾り物へ。そこから、リビングの一面だけに塗ったチョコレート色の壁に目を移すと、そこには巨大なインド製の鏡がある。ソファに敷いたチャイナ風ファブリックからは、その延長にある朝食用と書き物用を兼ねた中国製の机へと人の目をいざなっていく。
色もまた彼女の生活にとって大切な要素だ。オレンジといった個性の強い色もアクセントに使う。その最も大胆な例が寝室の壁に施したブルーである。淡い空のようなブルーでなく、もっともっと深く濃いブルー。以前、グレーに近い色だった壁を塗り替えた。「色の効果というか、朝、目覚めたときにはっとさせてくれる色が私には必要だったから」
「最近、25才になった息子が別の場所にアパートを借りてここを出たばかり。だからなんとなくさびしいのよ」。やさしい母の顔をみせるファビエンヌ。アパートに残る最後の1室は、近所にあるアトリエに加え、作業部屋として使えるよう現在改装中である。部屋には大きな貝を描いたカーテンがすでに吊るされている。どんな部屋になるのだろう。きっとまた人の目を驚かし、楽しませてくれるにちがいない。そう、それが彼女をアーティストと呼ばせるゆえんなのである。
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ファビエンヌ・ジュヴァンさん/
Fabienne Jouvin
<アーティスト> |
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TEXT:中平美紀 PHOTOS:Jacques Pepion |