上から左から、
●15年前、このアパルトマンに引越してきた時に購入したソファはリビングの中心的存在。壁にかけた絵はアンヌの友人でアーティストのCecile VATELOTの作品。● 最上階にあるアパルトマンの特徴は傾斜した壁。●冬に使っているマントルピース。前に貼った新聞紙は煙よけのため。新聞の文字は“絵になる”。●引越してきた時にアンヌがデザインし、大工さんに作り付けてもらった書棚。●螺旋階段をのぼったところに夫婦の寝室を最近しつらえた。高さは低いけれど、空を寝ながら眺められるロマンチックな空間。●オープンタイプのキッチンは以前の持ち主が作っていたデザイン。 |
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アンヌは推理小説やシナリオを幅広く手がける作家である。彼女のアパルトマンがあるのはパリの北部、モンマルトル。夫と17才の息子、7才の長女と暮らしている。
玄関を入るとすぐ、白くペイントされて広々としたリビングが目に入ってくる。実は、このアパルトマンに彼女専用の仕事部屋はなく、書き物をするのはもっぱら、リビングに置いた2つのテーブルのどちらか。子どもが寝静まった夜遅い時間、メモをつなぎ合わせながら構想を練る。彼女の作品「Nazes brocs(直訳:どうしようもないヤツ)」の時もそうだったが、推理小説を書く時は、図書館で実際に起きた事件の情報を探したりする。そうした情報の破片を集め、まずは筋書きをノートに手書きし、それからパソコンに打っていくのが彼女流。そんな作業をしながらアンヌは映画音楽をよく聞く。シーンのイメージが頭に浮かんでくるらしい。
ところで、アンヌのアパルトマンは、築100年ほどの立派な建築物の最上階に位置する。実はここ、かつては女中部屋が並んでいた階である。パリの古いアパルトマンの外観をよく見ていると、トタン屋根の下に天井の低い部屋がある。ここは、階下のアパルトマンに住むブルジョア家族に雇われ、住み込みで働いていた女性たちの小部屋であった。部屋の大きさは4畳半もあるだろうか。トイレやシャワーも廊下にあり、共同使用していたという階である。ところが、ここ20年ほど前から、この並んだ小部屋をいくつも購入し、壁を壊して、ひとつの大きなアパルトマンとして住む”おしゃれな“人々が増えてきた。天井は若干低いものの、なにせ空に近い。光がさんさんと注ぎ、天井の梁をむき出しにした空間はパリジャンの憧れともいえる。アンヌは15年前、以前の持ち主が7つの女中部屋を一緒にして改造したこの広いアパルトマンを見つけた。アンヌはその採光と静かな環境に一目惚れ。アーティストが多く集まるモンマルトルという立地も良かった。
彼女がコーディネートするインテリアにはまったく気取りがない。50年代、60年代デザインの木製家具について聞くと、”エマウス“というフランスのカトリック団体が運営するリサイクル店で見つけたテーブルや椅子だと、アンヌは笑って答えてくれた。エマウスはモノを捨てずに大切に使うフランス人気質に合って、ひそかな人気がある。破格の値段だし、掘り出しものが見つかればラッキーという、フランス人の間では避けて通れないアドレスである。ただし、その誰のものだったかにこだわらない家具のチョイスとはまるっきり反対に、壁に飾った絵やタピスリーはすべて友人アーティストたちの作品。「私は出所がはっきりとしたものしか飾りたくないという気持ちが強くて」とアンヌ。昼間はママンとして、夜はミステリアスな作家として自分を置く空間が、この空に近いリビングである。
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アンヌ・ソアラさん
/Anne SOALHAT
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TEXT:中平美紀 PHOTOS:Jacques Pepion |