取材撮影のひと月ほど前、打ち合わせで銀座にある室井さんのお店「リストランテ エム・ディ・ピュー」をお訪ねした。
まずは、「室井さんに釣りをしていただいて、その釣った魚でお料理を作っていただきたいのですが、……」と切り出す。すると、0・5秒後には「この時期は、わかさぎですね。わかさぎの身をすりつぶして、それを団子にして、温かいスープ、これが旨いんだよね」との返事がかえってきた。
わかさぎは淡水魚にしては骨が柔らかく、味は鮎に似て淡白。てんぷら、フリットの他、塩焼き(筏焼き)、つくだ煮、南蛮漬け、マリネなどなど思い浮かぶが、わかさぎのすり身のあったかスープ、それもイタリア料理と聞いて、まずはみなさんどんな味を想像しますか?
以前にも室井さんは、中禅寺湖では船を出し姫鱒を釣り上げ、北海道の八雲町では内浦湾で小さな漁船なみの船を出し、鮭を釣りあげた。そしてその後、釣ったばかりの魚を料理し、同行の面々は白ワインを飲みながら、料理をいただく。こんなおいしいことないな、と私は思ったものだった。さらに、室井さんは相当凝り性の釣り人である。釣り竿を作ったり、ナイフの柄をデザインしたり、道具にも自分らしさがよく現れている。 |